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県立精神医療センター:丸山新院長に聞く

2012.9.25掲載

県立精神医療センター(長岡市寿2)では昨年9月、10年来の入院患者(30歳代・男性)が原因
不明の骨折をしていることが明るみに出た。
これではあまりにも患者が気の毒だとの投書が編集部に届いている(匿名・要旨を別掲)。
骨折箇所は、既に治癒している部分も含め10カ所以上あった。患者は暴力をふるった9人の
看護師の実名をあげて、虐待を受けたと訴えている。
県は刑事告訴を進めているというがその帰趨は判然としない。
こうした状況のなか4月1日付で院長は更迭。従前からの副院長職からの昇進人事である。事
件当時副院長であった新院長の下で、どこまで刷新が進むのか。加害者とされている看護師
らは暴力行為を認めず、そのまま勤務している。骨折した患者もそのままである。
果たして刷新は可能なのか。疑問をもつ向きも少なくない。

重大不祥事が続出の事態

 同骨折事件を受けて県は、第三者による調査委員会(委員長・比護隆證弁護士)を立ち上
げ、3月には報告がなされ、同センターの重大な不祥事が累積していることが明確になった。
昨年5月19日患者がベッド下で死亡していた。
同7月16日には骨折した患者がベッド下に転がっていた。
同9月15日には寝たままの患者が頭から血を流していた。
同10月26日には下あご骨折の患者があった。
今年2月9日には無断で病院を抜け出した患者が交通事故を起こした。
判明しただけでもこれだけの重大事故が相次いでいる。患者がベッド下で転落死など、ありう
るのか。看護師は何をしていたのか。寝たきりの患者が頭から血を流していたのは何故なの
か。
無断で病院を抜け出して交通事故を起こすなど、病院はどのような対応で患者に接しているの
か。
医療体制の刷新は進んでいるのか。疑問点は噴出する。

自殺した看護師も

さらに、骨折事件に関係する第三者委員会が調査中の2月に、実名をあげられた看護師の1
人が自殺した。因果関係は説明しきれないのであるが、噴出する多数の不祥事は、医師と看
護師の入院患者に対する対応のあり方に、甚大な欠陥があることを窺わせる。それは杞憂な
のか。
そのような疑問が解消しないなかでの当該投書は、同センターの医療体制を指摘し生々しい。
そこで、4月1日付で着任した丸山直樹氏(61)に、さまざまな問題を抱える同センターの今後
について話を聞いた。
丸山院長は茨城県水戸市出身。同センターで25年あまり勤務し副院長から昇格したばかりで
ある。

――患者の多くは統合失調症

同センターは1957年、従前の悠久荘が「中越地域における県の精神医療の基幹病院として」
生まれ変わったもの。
小児期から成人期までのさまざまな精神疾患の診断や治療を行っており、現在300人以上が
入院している。
患者の多くは「統合失調症で、うつ病やアルコール依存のような依存性疾患の方も少なくあり
ません」と丸山院長は言う。
統合失調症は、2002年までは精神分裂症と言われていた。1993年に全国精神障害者家
族会連合会が病名変更の要望を提出したことから病名変更になったもの。病気のもつマイナ
スイメージを払拭し、誤解や偏見をなくしていくためにも、名称変更は大きな意味があったのだ
ろう。
症状は、直接の原因がないのに考えや気持ちがまとめられなくなり、その状態が長くつづくこと
により行動がぎくしゃくしてしまう。対人関係は苦手になる。同センターは、そのような分野への
専門病院である。
統合失調症は早期の薬物治療で病状の悪化を防ぐことは可能である。
同センターでは、「入院患者に対しては、薬物治療を中心に早期の社会復帰を目指し」てい
る。このため各種治療の充実を図っている。
また「外来患者の社会生活を支え、充実を図っていくために、デイケア活動、外来作業療法、
精神科訪問看護などにも積極的に取り組んでいます」と丸山院長は言う。
さらに精神障害に関しての理解を深め、より多くの方々に知ってもらうため、「毎年、市民健康
講座を県内各地で開催しています」とする。
一方、昨年、骨折が公になった際の記者会見では前院長は拘束衣の着用や、患者が暴れた
場合の対応などについてコメントしている。状況によっては薬物治療以上の対応も生じている
ようである。

――昨年以降に発覚したさまざまな事件に対する対応は

 骨折事件を受けて、第三者による調査員会報告書では「負傷の原因と時期は特定できず、
事実関係は解明できなかった」としながらも、「やり過ぎととらえる行為があることも明らかにな
った」とする。たとえば、職員による患者に対する加害行為が35件、患者の職員への加害行為
が8件、患者同士の加害行為も14件、あった旨報告されている。
こうした事例の集積のなかで、患者に対する配慮の不足、患者に威圧的な男性看護師の存
在、医師・職員の連携不足などの指摘が行われた。
丸山院長は、「3月に第三者調査委員会の報告による指摘、提言を受けて、再発防止のため
職場風土の改善や病院体制を検討すべく多職種、多部署からなる精神医療センター改革検
討チームを設置しました。現状における問題点や具体的な改善案、今後の病院のあり方など
を検討していく予定です」とする。
 そのとおりであるとしてぜひ実現していって欲しい、との指摘は関係者から聞くところである
が、丸山院長は「具体的には、病棟におけるカメラの設置や、職員の意見が直接院長の下に
届けられるシステムづくり、主治医と看護師、スタッフの情報共有化を図るなどしていきます」と
改善に意気込みを見せている。

――調査中に看護師が自殺するなど、現場で動揺が広がっているのではないか

看護師が1名調査期間中に自殺した。事件との因果関係が解明されているわけではないが、
陰鬱な事態であることに変わりはない。
丸山院長は「今回の事件を受けて、医師や看護師の間では、再発を防ぐにはどうしたらいいの
か、と意識が高まっています。患者の接遇に対しても、いろいろと変わってきているように思い
ます」という。
そして「精神病患者の看護は、看護師にとっても大きな負担があることを知ってほしいです。看
護師の精神的疲労に関しては、月1回病院局のカウンセリングや面談などをしています。外部
から講師を呼んだり、研修会を通したりして、良い精神医療を目指していきたい」と医療の改善
と質向上を語る。
しかし法律で定める6時間ケアを5時間に短縮してしまったとし「十分なケアを受けられません
でした。あとで患者と家族におわびの説明がありましたが、国や県に処分を受けたらしく、半月
くらい閉鎖されていました」とのことである。新院長に期待されることは、このようなことがないよ
うにすることだろう。

――実名をあげられた看護師らはどうなっているのか

虐待の結果骨折したとし、9名の看護師の実名が明らかになっているが、「県の方で、警察に
告発したと聞いている。現在は、警察の方で粛々と捜査が進められていると考えている」と丸
山院長はとどめる。自分の部下職員のことではあるが、県に任せているとのスタンスである。
同事件の悲惨なところは、骨折するほどの虐待を受けたとする看護師は全員そのまま同病院
に勤務していることであろう。しかも同じ患者を担当している。患者にとっては最悪の事態だろ
う。
編集部への投書では「病院で虐待されてもその病院しか居場所がないのです。唯一の居場所
が、暴行を続ける看護師と見て見ぬふりをする看護師しかいない場所だとしたらその絶望感
はどれほどかと思います」と転勤させることはできないのかと指摘する。
しかし、丸山病院長は「現在も当センターで、それぞれの職場に所属してもらっている」とする
のみである。新潟県には県立病院が15もあるのだから異動先はたくさんあるのではないだろう
か。
同センターは「職員労働組合がきわだって強く、これまでは異動を拒否」してきたと当該の投書
は語る。その結果、何十年も同じ職員が居続けて暴行や虐待を繰り返す温床となる職場風土
が生まれたのではないか。その可能性はないのであろうか。そのような指摘が関係者から出
るところに、精神病医療の課題があるのだろう。

――新院長として市民に一言を

丸山院長は、「今回の事件を踏まえた上で、さまざまな改革を進めていきたい。長年にわたり
蓄積したものもあり、一朝一夕でできることではないが、一つずつ着実に進めていきたい」とい
う。その言葉の通り、入院患者の人権が守られ、家族も病院も良好な関係であるようにあって
ほしいものである。
同事件にかかる調査報告書は、本件のような異常な事態が発生した背景には、職員個人の
倫理的な問題だけではなく、「背景に組織風土の問題がある」と結論付けている。(調査報告
書15頁)これは、管理者としての責任を問うたものであろう。それだけに、新院長の人柄と力量
に大きな期待がかかっている。

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A2011年に発生した暴力事件についての投書(2012.9.25掲載を2015.9.10再掲載
B第三者委員会設置:県医療センター2011.12.27掲載
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D第三者調査委員会が報告書を公表(その2)2014.4.10掲載
E丸山新院長に聞く:2012.9.25
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GNo.130:新潟県立精神医療センターで暴力再発(2015.9.15)

 
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