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大相撲の土俵真上には、「屋形」(やかた)がある。通称「吊り屋根」といい、6・25dの重さを2
本のワイヤーで吊っている。相撲興行は当初屋外で行われたから、雨除けのため屋根が必要 だった。だが今は屋内である。「吊り屋根」は無くても良いように見えるが、そのように思う人は 少ない。むしろ伝統の力を感じているようだ▼昔は4本の柱を立てて、その上に入母屋造りの 社殿を載せた。そこに神が降りてくる。ところがその社殿を伊勢神宮と同じ神明(しんめい)造 りに変えたのが昭和6年(1931)だった。この時代の天皇は絶対視され、神とされていた。神 の始祖で、深い関係にある伊勢神宮と同格とは、畏れ多いことである。当時「よく皇室が許した ものだ」と誰もが驚いたという▼どこからもクレームが出なかったのは、相撲の持つ伝統が納 得させたのだろう。だから現在も「吊り屋根」の社殿は、社格を表す丸い横木(鰹木・かつおぎ という)を10本も屋根に載せている。10本は伊勢神宮と同格。最高の格式を示す。大相撲は土 俵真上に最高の格式を載せ、神が降りて宿る真下で取り組みをする▼両国の国技館も、「国 技」を冠している。だが、誰も不思議に思わない。日本には古くから伝わる伝統の武道は数多 くあるが、命名する時にクレームがあったとの話も無い。「国技」は相撲なのである。こうして大 相撲は、国技の地位を盤石にして行く。見事なマーケティングだった▼改革を主張する声もあ る。だが相撲協会のビジネス感覚もなかなかのものである。(とけいそう)
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