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悠久録(過去の悠久録はこちら)
No.796:秋の七草
(9月2日分)

猛暑の夏も終わって、朝晩はすっかり涼しくなった。ススキの穂が銀色に揺れている。山肌に
はハギの花が目だつ。さほど華やかな雰囲気は無いが、万葉の昔から賞美されてきた草花で
ある。晩夏は初秋に重なり、実りと紅葉の時季に入る。季節の移ろいはまことに早い▼ススキ
とハギ2種にキキョウ、ナデシコ、クズ、フジバカマ、オミナエシを加えた7種を「秋の七草」とい
う。七草粥のような特別な行事は無いが、古人は七草に季節の変化を見た▼七草のなかでは
ナデシコだけがカラフルである。その華やかな色合いのため、○○ナデシコと日本女性の代名
詞になった。だがフジバカマ、オミナエシなどはかなり地味である。そのような野の花を万葉の
歌人が歌に詠みこむことで、「秋の七草」が定着した。山上憶良(660?〜733?)には「秋の
野に/咲きたる花を/指折りて/かき数ふれば七種(ななくさ)の花」がある。秋の野に出て七
草を愛でる憶良には優しさが満ち、哀愁が漂っている。憶良と同時代人には、十二単(じゅうに
ひとえ)に見るような王朝文化の煌びやかさだけでなく、華やかさを押さえた地味さにも美しさを
見ていたのだろう▼抑制された美を良しとする日本人の美意識は、後年の東山文化を生み、
侘び、寂びに繋がった。安土・桃山の煌びやかさに対比される美の系譜は、憶良を源流にもつ
のだろうか。その起源はずいぶん古い時代に遡ることになる▼地味な「秋の七草」である。自
生のキキョウやナデシコは少なくなったが、たどれば長い歴史がある。(とけいそう)


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