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No.875:他山の石

(9月8日分)

「他山の石」は他所の山から出た石である。庭園に据えた銘石とは違う。だが、「よその山から
出た粗悪な石でも、それを砥石ほかに活用すれば自分の玉(ぎょく)を磨くくらいの役には立
つ」の意で使う。中国の古典『詩経』からの言葉と聞く▼いわば「自分よりも劣っている人の言
行も自分の知徳を磨くたすけになる」ことのたとえである。極端に忙しくなれば、「猫の手も借り
たい」ことになるが、「他山の石」はそれに近い。だから目上の人に使ってはならない。「先生の
言葉を他山の石として精進します」は「枯れ木も山の賑わいと申します。ぜひ先生のお力を」と
同様に、これ以上の失礼はない。さだめし出入り禁止になるに違いない▼日本語はそのような
微妙な部分があるので、注意しなければならない。だが実はこのような間違いは少なくない。た
とえば『広辞苑』である。新村出先生(1876〜1967・しんむらいずる)が編纂した同著は近代
日本語の精髄とされる。岩波書店から昭和30年に初版が世に出て以来、版を重ねてきた。今
も高い評価を得ている▼だが先生は初版の序文で「フランスの大辞典リレットないしラルース
等の名著――を他山の石として」と表現した。尊敬する諸事績を「他山の石」としては、本文の
説明と食い違う。既に鬼籍に入られた先生に真意を聞く機会はないが、序文を修正することも
かなわず、岩波書店は連綿として同一文を掲載し続けている▼国語学の泰斗(たいと)新村先
生でもこのようなことが起きる。まことに日本語は難しい。(とけいそう)



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