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(5月16日分)
14日は「母の日」だった。この日はカーネーションを贈る習慣である。多くの家庭で、母を囲ん
で和やかな交歓があったことだろう▼「母」と聞くとき童話『一杯のかけそば』(栗良平著)を思 い出す。バブル最盛期にフイーバ―。週刊誌が取り上げ、国会でも話題になった。泉ピン子の 母親役で、映画にもなった。「読む会」が全国にでき、作者名にあやかって「栗っ子の会」もでき た▼当時は土地価格が暴騰し、株価も史上最高値を付けていた。景気の良い話があふれ、世 の中は浮かれていた。だがバブルの恩恵をうけながらも、多くの国民は一抹の不安を感じてい たのだろう。その不安が流行を後押しした▼物語は大晦日の遅い時間、母親と2人の幼い息 子が蕎麦屋にやってくる。そして一杯のかけそばを注文する。具のない一番安いそばである。 蕎麦屋の店主は事情が分からないまま、3人に同情。増量したかけそばを出した▼父親を喪 って貧乏になった母と子は、実際は1・5杯分のそばを3人で分け合う。「美味しい」と声を上 げ、笑顔をこぼす。翌年の大晦日も、その翌年も、同じことが繰り返された。だがある年、3人 の来店は途絶える▼それから十数年後、成人した2人が母親を伴ってやって来た。今度は3 杯のかけそばを注文する。幼いとき、1年に1度のたのしみを与えてくれた母親への恩返しに、 成人した2人が決めたという。ようやくたどり着いた安寧の日に、読む人は涙を流したのである ▼「母の日」は過ぎているが、想いを伝えるのに遅すぎることはない。(とけいそう)
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